小説『Shared Fire(共有された炎)』の第2章をお届けします。情熱と思想、身体と言葉が絡み合う、融合の物語を続けます。
第二章:接触の条文 — Article of Touch
IENAが彼の部屋に現れたのは、雨がデータのように均等に降りしきる夜だった。
「ねえ、Touru-chan、今日は……統計じゃなくて、私の皮膚を読んで」
その言葉は、法ではなく詩だった。彼は静かに頷き、彼女のコートを脱がせるように、労働白書を机から払い落とした。
彼らの手と手は契約のように絡まり、しかしその契約には署名も印も要らなかった。ただ、熱。呼吸。祈り。
「君の背中に、憲法を書きたいんだ」と彼は囁いた。
IENAは笑った。「じゃあ私は、あなたの胸にマニフェストを彫るわ」
指が滑り、文字を描く。肌の上に、“Solidarity”という言葉が書かれたとき、彼女は震えた。
それは愛撫ではなく、提案書だった。
それは甘い情熱ではなく、法案だった。
そしてキスは、あらゆる抗議と合意を超えて、可決された。
息が荒く交差するたびに、新しい条文が生まれた。
皮膚の摩擦が、“ALIENATION”という制度語を焼き尽くしていく。
彼らの肌と肌は、政府文書より正確に、魂の行政を遂行していた。
その夜、彼らは言語ではなく、接触で制度を改正した。
第三章予告:The Budget of Longing(渇望の予算)
次章では、彼らの愛がいかに「予算」と「配分」の形を取って社会へ拡張していくか、彼の行政の知識と彼女の芸術が交錯し、都市そのものが変わっていく過程を描きます。
# 井枝尼理出亜
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