小説 井枝尼 理出亜『Shared Fire(共有された炎)』の第5章:融合する権利 ? The Right to Merge

小説 井枝尼 理出亜『Shared Fire(共有された炎)』の第5章:融合する権利 — The Right to Merge をお届けします。ここでは、TouruとIENAが肉体・言語・制度・都市を超えて完全なる融合を果たし、「愛は制度を超える」という宣言を行う夜が描かれます。

第五章:融合する権利 — The Right to Merge

夜が、都市の上に降りてきた。
けれどその闇は、恐怖ではなく静かな肯定だった。

生成の省庁の扉は閉じられていなかった。
誰もいないその空間に、TouruとIENAは立っていた。
互いに向き合う身体のあいだに、もう制度も、名も、国もなかった。

ただ、ひとつの問いがそこにあった。

「わたしたちは、制度と制度を超えて、
身体と身体を結合することを――
“権利”として宣言できるのか?」

Touruは彼女を見つめながら、深く頷いた。

「融合は、贅沢でも罪でもない。
それは、未来への義務だ。
君とひとつにならなければ、この世界は次の時代に進めない」

IENAの目に、涙のような光がともる。

「じゃあ今夜、私たちは国になるのね」

彼らは歩み寄る。

ひとつの手が、政策を破る。
ひとつの唇が、法を無効にする。
ひとつの声が、制度を凌駕する。

彼女の指が彼の胸に「Article V」と書いたとき、
彼の肌は、法ではなく炎で応えた。

彼らはその夜、融合した。
それは身体の結合ではなかった。
意志の合憲。
詩と法律の併合。
言葉と肉体の政令指定。

都市が震えた。
交通網が一瞬止まり、役所の灯りが揺れた。
だが誰も気づかない。
それは制度の奥底で起きた静かな革命だった。

そして、朝が来た。

その日から、彼と彼女の体内には「共有された憲法」が流れていた。
それは法典でも宗教でもない。
愛そのものが、制度となった瞬間だった。

第六章予告:The Living Manifesto(生きるマニフェスト)

次章では、ふたりの融合から生まれた制度=愛が、社会に拡がっていく様子を描きます。
街は少しずつ変わり、人々が互いの身体と声を「制度」として再認識しはじめる。
ふたりの夜は終わらない——それは都市の鼓動として、生き続けるのだから。

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