小説 井出尼理出亜  夕暮れの   足柄峠から

井出尼理出亜  夕暮れの   足柄峠から  スケッチブックを片手に。木炭で、足柄峠から、街並みと、富士山麓を、夕暮れの光景を描いて付く。水平線を見つめる 水平線を見つめ、世界の構造、片鱗、輪郭線を見つめる。呼吸を整え、構造をそのまま、写し取る  自分を見つめ、描きたい構造線を書かないように、急いで線を描かないように、する。すると世界と自分の関係が浮かび上がる  世界の…

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神の試練、イエスのまなざし ―― 井枝尼理出亜

神の試練、イエスのまなざし ―― 井枝尼理出亜 夜明け前、街のざわめきがまだ眠りについているころ、理出亜は古びた聖書を膝の上に広げていた。 ページに記された物語は、彼女の胸を強く締めつける。 ――イサクを神に捧げよ、と告げられるアブラハム。 ――次々に試練を与えられるヨブ。 神は犠牲を求め、人に苦しみを背負わせるように見える。 理出亜はその言葉に立ち止まった。 「ど…

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小説版 ― 革命戦士・美人 井枝尼理出亜 ― 弱さから強さへ ―

小説版 ― 革命戦士・美人 井枝尼理出亜 ― 弱さから強さへ ― 序章 ― 夜明け前のバベル都市 濃紺の空を切り裂くように、巨大モニターの光が街を照らしていた。 《役に立たない者に未来はない》――歪んだ標語が、ビルの壁面に脈打つ。 井枝尼理出亜は、湿った路地に背を預け、息を整えていた。 手のひらは汗で濡れ、指先は震えている。 戦士として名を馳せた彼女でさえ、心が砕けそう…

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